はじめに
G.W.Mair氏の書籍[1]において、寿命Nの分布を二母数ワイブル分布(WD)としているが、取り扱い上はこれを等価な対数正規分布(LND)で近似して処理している。寿命のワイブル分布の確率密度関数は以下の式で与えられる
$$
f_X(X)=\frac{b}{T}\left (\frac{X}{T} \right)^{b-1}exp \left [-\left (\frac{X}{T} \right)^b \right] \tag{1}
$$
ここに、\(b\)は形状母数、\(T\)は尺度母数であり、\(X\)は寿命を示す変数である。累積分布は以下となる。
$$
F_X(X)=1-exp \left [-\left (\frac{X}{T} \right)^b \right] \tag{2}\\
=1-SR(X) \\
=FR(X)
$$
ここに、\(SR(X)\)は残存確率を、\(FR(X)\)は破損確率を示す。
等価性の考え方
対数正規分布の寿命\(N\)の対数値の平均を\(m_{logN}\)、標準偏差を\(s_{logN}\)とするとき、等価性の定義を次式で与える。
$$
N_{16\%}=10^{m_{logN}+s_{logN}}; SR(N_{16\%})=\Phi(-1) \tag{3}\\
N_{84\%}=10^{m_{logN}-s_{logN}}; SR(N_{84\%})=\Phi(1)
$$
ここに\(\Phi()は標準正規累積分布関数\)、\(N_{16\%}\)は生存率の累積値が16%となる寿命、\(N_{84\%}\)は生存率の累積値が84%となる寿命であることを示す。この式の意味するところは、ワイブル分布の対数平均値\(m_{logN} \pm s_{logN}\)の寿命に対する累積分布値が18%と84%となる対数正規分布に近似するとする考え方である。この定義を、式(2)の累積破損確率で表現すると以下の式となる
$$
F_X(N_{16\%})=1-exp \left [-\left (\frac{N_{16\%}}{T} \right)^b \right] =1- \Phi(-1) =\Phi(1) \tag{4}
$$
$$
F_X(N_{84\%})=1-exp \left [-\left (\frac{N_{84\%}}{T} \right)^b \right] =1- \Phi(1) =\Phi(-1) \tag{5}
$$
なお、以後、対数値の平均値に対応する寿命値\(N_{50\%}\)、対数値の標準偏差値に対応する寿命値を\(N_S\)で表記する。つまり、
$$
N_{50\%}=10^{m_{logN}},N_S=10^{s_{logN}}
$$
近似式の誘導
式(4)を変形すると
$$
b(log N_{16\%} - log T)=log(-log(1-\Phi(1))) \tag{6}
$$
ここで、\(log\)は\(e\)を基底とする対数である。同様に式(5)を変形すると、
$$
b(log N_{84\%} - log T)=log(-log(1-\Phi(-1))) \tag{7}
$$
式(6),(7)の右辺を\(C_1,C_2\)と表記する。つまり、
$$
C_1=log(-log(1-\Phi(1))),C_2=log(-log(1-\Phi(-1))) \tag{8}
$$
式(6)と(7)の差分をとって\(b\)について整理すると
$$
b=\frac{C_1-C_2}{log N_{16\%}-log N_{84\%}}=\frac{C_1-C_2}{log 10^{m_{logN}+s_{logN}}-log 10^{m_{logN}-s_{logN}}}=\frac{1}{2s_{logN}} \left( \frac{C_1-C_2}{log 10} \right) \approx \frac{1.02763}{2s_{logN}} \tag{9}
$$
これにて、\(b\)に対する近似関係が誘導された。なお、\(s_{logN}=log_{10}N_S\)の関係にあることに留意すること。次に、\(T\)を誘導する。\(N_{16\%}=N_{50\%} \cdot N_S\)の関係に留意した上で、式(6)を書き直すと
$$
b(log (N_{50\%} \cdot N_S) - log T)=C_1 \tag{10}
$$
これに式(9)で誘導した\(b\)の近似式を代入すると以下が誘導される。
$$
T=N_{50\%} \cdot N_S^{1-\alpha},\alpha=\frac{C_1*1.02763}{log 10}
$$
\(\alpha\)を計算して書き直すと
$$
T \approx N_{50\%} \cdot N_S^{0.484136} \tag{11}
$$
これにて、Tの近似関係も誘導された。式(9)がMair氏の本の式(5.32)に、式(11)が、式(5.31)に対応していることを確認されたい。
参考文献:
[1]G.W.Mair,’Safety Assessment of Composite Cylinders for Gas Storage by Statistical Methods’,
Springer International Publishing AG 2017,DOI 10.1007/978-3-319-49710-5.